「ミライを語るコトバ」をつくっていこう!と、理想の街を描きながらアイデア出し。慣れていないブレーンストーミングもだんだんエンジンがかかってきた後半です。今度は悩みや気になる課題、そして解決するアイデアをどんどん出して、いよいよフューチャー・ランゲージを生み出します!
「フューチャー・ランゲージ」とは
「自動車」という言葉ができる前、自動車は「馬なし馬車」と呼ばれていたそうです。「自ら動く車」という考え方がなかった当時の人々は、それを表す言葉を持っていませんでした。でも、もしも先に「自ら動く車があったらいいな」「それを『自動車』って呼ぶのはどう?」なんて会話をしていたら、「馬なし馬車」よりもイメージがふくらんで、自動車の進化は早まったかもしれません。「今ないもの」を表す共通の言葉をつくり、理想の未来をぐっと近づける。それが、フューチャー・ランゲージという考え方です。
ジェネレーター
*「ジェネレーター」とは、ティーチャー(教える人)でもファシリテーター(話を引き出す人)でもなく、「創り出す人」のこと。参加者と一緒にミライのコトバを考えます。
井庭 崇(いば たかし)
慶應義塾大学総合政策学部教授。創造的活動を支援する「パターン・ランゲージ」の日本における先駆者であり、未来へ向けて言葉づくりからアプローチする新たな手法「フューチャー・ランゲージ」を提案。産学連携によるワークショップ等で、海老名市をはじめ全国の街づくりなどに携わる。著書に『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』『プロジェクト・デザイン・パターン』等
参加者
栄野裕希(えいの ひろき)さん
海老名在住 高校2年生。小学生から現在までバスケを継続。ファッションに興味があり、服を買いに行くことにハマっている。
横田翔矢(よこた しょうや)さん
海老名在住 高校2年生。小学生からバスケ部。大会で見かけていた他校の栄野さんとは同じ高校のバスケ部で再会。好きなことは寝ること。
舘 史海(たち ふみ)さん
海老名在住 高校2年生。2歳からフィギュアスケートを始める。6歳で選手登録し高2の秋で引退。趣味は映画鑑賞。
佐伯 凛(さえき りん)さん
海老名在住 高校3年生。小6から高2の引退までバスケ部でレギュラーを務めた。ショッピングが好き。
瀬戸 星(せと あかり)さん
海老名在住 高校2年生。趣味は漫画を読むこと。少女マンガのみならず少年ジャンプ系も愛読。ジャンプ系ならどのマンガもおすすめだそう。
サポーター 慶應義塾大学 井庭崇研究会 ゼミ生
村上 航
伴野友香
1.街に関わると愛着のある街に
井庭
さて、みなさんが描く理想の街がたくさん出てきました。では、次は困っていることや悩みを青い付箋に書きましょう。個人的なことでも構いません。そして黄色付箋の内容に対応するものをその下に貼ってください。例えば「街が人工的で疲れる」には「自然が豊か」が関係するとか。
村上
僕は家に「帰って寝るだけ」になっていて、自分の住んでいる街で楽しいと感じることがあまり思い浮かばないですね。
舘
私は「勉強でわからないところを先生にすぐ聞けない」から困ります。特にテスト前(笑)。
瀬戸
あと、勉強だけでなく、「気軽に何かを相談できる場所が無い」と思います。
井庭
僕は人と会う時間が多く、自分で「ゆっくり考える時間が無い」。場所ともいえるかな。
村上
それ、さっきの「帰って寝るだけ」が「自分の時間が無い」に近いニュアンスです。
舘
「共感性が少ない」。例えば、ゴミ分別に対して“自分に関係が無いからやらない”って言う人たちがいて、“誰かが関係あるからやろう”ってなるといいのにと思います。
村上
街に愛着がなくなっている人たちが増えているのかなあという気がします。
井庭
多様性が重視されてくると、存在主義みたいに“そういう人もいるよね”“ああいう人もいるよね”ってなってしまうんだよね。
瀬戸
生活はしているけれど「街で自分が何かしたという経験が無い」。家庭菜園と一緒で、街づくりとか何かに携わると愛着がわくだろうから、街に貢献したという体験が街を愛するきっかけになるのかなと思います。
井庭
街に携わることでいえば、例えばアートのある街、フォトスポットとか高校生が考えるといいよね。ある市役所の中に女子高生だけが入れるJK課というのがあって、ゆるくおしゃべりしに行くだけでその中から出てきたアイデアを市に生かしているところもあるからね。
横田
あと、「海老名だからこそできることが少ない」。
村上
ああ、わかる!それ、理想(黄色付箋)としては「オンリー1な街」に関係しますね。“いい”街、“悪い”街はあるけれど“らしい”街が無いかな。
理想(黄色)の次は悩みや課題を青の付箋に書き出します。
2. 多様性の社会、LGBTは当たり前
舘
制服の男女差が無意味だと思います。私の学校で男子はズボン、ネクタイで女子はスカート、リボンですが、LGBTの女子がズボンを履いていると怒られるというのが嫌ですね。
井庭
制服はもろに男女だもんね これだけ社会的にLGBTのことが話題になり変わってきているのに、たしかに制服については遅れているよね、男女できっぱり。
栄野
なんとなく“男子はこうしろ、女子はこうしろ”と思われているのが嫌です。この間LGBTの人の講演で、海外はLGBTに理解があって性別でものごとを考えないと聞きました。
井庭
アメリカとかだと、性別での差別と言われるだろうね。採用とかで年齢も聞いたらいけないんだよ。
僕の次女が通っていたアメリカの学校の女性の先生が、最初の自己紹介で「私のワイフです」って女性の写真を出してね。周りは全然驚かなかったけど、僕だけ「わお!」って思って、ああ日本人的感覚なんだなあって思った。
舘
私も通っていた高校がインターナショナルスクールで、男子が「僕の恋人」って男子を紹介しました。驚いたのがやっぱり私だけで、日本人だけそういう感覚があるんだなあって。
井庭
高校生がLGBTについてこんなに語る、そういう時代になったんだなあって思いますね。僕らの時代にはそんな話、まず出なかったから。
LGBT、多様性についてのびのびと話す高校生たち
3. 人間関係だけでない自然スケールで広い視野を
栄野
街で発達障がいの人がいると、周りの人がこそこそ話すのを見かけて、まだ「障がい者への偏見」があるんだなあと思います。
舘
「教師がいじめの対応をできていない」というニュースも頻繁に見ますよね。
井庭
それね、この(黄色い付箋の)農業につながるんだよ。なんで、いじめで自殺に追い込まれてしまうかというと人間関係しか見ていないから。宮崎駿さんと養老孟司さんの対談の中で、ある学校で今考えていることを書いてもらったら、先生も生徒も人間関係のことしか出てこないんだって。それはいかに人間関係の中でしか生きていないかということ。二人は自然に対するまなざしがあるし、虫が大好きという世界にいると、人間関係がダメでも自然がある、もっと大きい世界があるという視点でいられる。でもその視点が無いと、人間関係がこじれたらもう世界が全部ダメみたいになってしまう怖さがあるよね。
井庭
25年引きこもっていた人が、農業で変わったという話もあります。人間の世界だけじゃないことにきっと気づくんだよね。
僕はひと株ずつ年間40~50種類の野菜を育てているから、同時に7種類育てることになります。それだけつくっていると、花が咲いたとか虫に食われたとか毎日どこかに変化があるんだよね。花が咲いて実がなると気持ちが明るくなるよ。
だから、いじめの問題はもう少し広い世界観でみるといい気がするね。
瀬戸
何か追いつめられると、海みたいなとか自然の中に行きたいなっていう気になります。
解決に導くためにも視点や発想を広げることが大切
4. 解決したら超ハッピーなことをどんどん出そう
井庭
もっと他に、こうなったら超ハッピーになるってどんなこと?
横田
うちの周りはマンションが建って日があたらなくなったから栽培もできないし、朝、太陽の光も浴びられなくなってしまって困っています。
栄野
「公共のトイレが欲しい」。わざわざトイレだけにコンビニに入るのも嫌だなあと思っています。
村上
正直、なんだか、公衆トイレって汚くて使いものにならないところが多いし。
佐伯
学校でメークができたらいいのに、なんでダメなんだろう?
井庭
うちの娘は10歳で、アメリカでメッシュを入れたよ(笑)。
瀬戸
みんな同じがいいという風潮でなく、もっととがった部分を伸ばしていくのが大切ですよね。
井庭
では、今度は黄色、青それぞれ似ている内容をまとめて、丸で囲って情報集約しますよ。例えば、「アートのある街」、「フォトスポット」、「誇れる街」、「オンリーワン」は近いかなとか。
「ストリートピアノ」と「フォトスポット」は全然違うけれど、「特徴的で人が集まってくる」というここでの意味の具体例としてまとまります。
近い内容をグループ化。フューチャー・ランゲージがイメージしやすくなります。
5. つながりから集約へ。「ミライのコトバ」がいよいよ誕生。
井庭
次に黄色と青のそれぞれのくくりを、解決につながる関係性でつなげていきます。そこに、どうすると実現するか緑の付箋にアイデア書いて加えてください。最後にアイデアを示す名前をピンクの付箋に書きます。インパクトがある言葉にすると印象が強くなりますよ。
井庭
じゃあ、中で蓋がしまる、危なくないゴミ箱の設置。ミニシェルターみたいな。ゴミシューターで地下にサッと落とせるのもいいよね。地下が深くて有毒ガスが上がってこないから安心。
井庭
ゴミを拾った分だけ公園を独占して使える「ゴミ通貨」とか(笑)。
瀬戸
自然を豊かにするために、みんなで苗から植える。
井庭
畑を耕すスポーツでアイススケートみたいに「ハタッケー」とか(笑)。
井庭
街中に果樹を植えるのに、みんなでつくる甲斐がある街路樹「甲斐路樹(かいろじゅ)」。
井庭
横田君が悩んでいた日陰の課題解決で、太陽光の鏡「照らし合いミラー」で日照確保。屋上に置いて互いの家に日を当て合うとかね。
村上
きれいな公衆トイレをつくる意味で「トイレ広場」。中心はトイレで、その周りに人が集まってくるようにしたらきれいになるだろうし。
井庭
トイレ広場、もう少し何か言い方が無いかなあ。
井庭
ウォーター、いいね。自然に呼ばれる感じで、「NCP:ネーチャーコーリングパーク」とか。
瀬戸
「ARTイレ」(アートイレ) 。トイレの外観をアート表現します。
井庭
海老名をもじるのもいいよ。海老名ストリートマーケットを「えびマ」とか。
佐伯
「Photo Ebina」。ハッシュタグが「#Ebinstagram」
瀬戸
地域交流サイトで何かいい言葉が無いですかね、「エビナチャンネル」かなあ。
村上
学習スペースやコミュニティの場として「皆習(みならい)広場」。
井庭
なるほど。今日もよいフューチャー・ワードがいろいろ出てきましたねえ。プレシニア世代や小学生とまた違う感じで面白かった。
ピンク(ミライのコトバ)が出ることも大切だけれど、みんなでポジティブに黄色(理想)や青(問題点)を出すことが大事なんです。
この中でいいなと思った言葉を、みなさんがどんどん発して広めてください。
アイデアが出るだけではなかなか形にならないから、言葉をつくる。名前をつけると未来が現れてきます。これがフューチャー・ランゲージのワークショップです。今日やってもらったように簡単だから学校でもやってみるといいですよ。ありがとうございました。
高校生編で生まれた「ミライのコトバ」
「My服」・・・制服を無くして男女差を無くし個性を伸ばす
「バス総選挙」・・・バスの増加に絡めてダイヤを投票で決める
「ルーツ・オン・えびな」「Natural Plan」・・・屋上ガーデンをつくる
「おつかれさまカフェ」・・・大人の居酒屋ではなく、高校生でも夜に入れるカフェ
「防音公園」・・・ 防音の壁があってどんなにうるさくしてもいい
「グリーンベンチ」・・・植物でできたイスで休息をとれる
「Photo Ebina」・・・海老名の写真撮影スポット。ハッシュタグが「#Ebinstagram」
「Ebinstein Space」・・・勉強スポットをアインシュタインにひっかけてエビンスタイン
「フリーダムスタディー」・・・動物殺処分が多いので命を考える場
「エビチャン」・・・海老名の地域交流サイト、情報のプラットホーム
「照らし合いミラー」・・・マンションの屋上に太陽光ミラーを設置してお互いに日当たりをよくする
「皆習(みならい)広場」・・・放課後、勉強や学びができる場
「えびマ」:海老名ストリートマーケットの略。
「NCP」:きれいな公衆トイレがある公園でネーチャーコーリングパークの略
「ARTイレ」:アートイレ。人が集まる場としてトイレの外観をアートで表現。