夏休みまっただなかの8月。今回の「海老名ミライカイギ」は、元気いっぱいの子どもたちが登場です。みんなが思い描く楽しいミライは?そして、それをカタチにするにはどうしたらいい?自由な発想で、小学生と中学生が一緒に考えていく時間の始まりです。
「フューチャー・ランゲージ」とは
「自動車」という言葉ができる前、自動車は「馬なし馬車」と呼ばれていたそうです。「自ら動く車」という考え方がなかった当時の人々は、それを表す言葉を持っていませんでした。でも、もしも先に「自ら動く車があったらいいな」「それを『自動車』って呼ぶのはどう?」なんて会話をしていたら、「馬なし馬車」よりもイメージがふくらんで、自動車の進化は早まったかもしれません。「今ないもの」を表す共通の言葉をつくり、理想の未来をぐっと近づける。それが、フューチャー・ランゲージという考え方です。
メイン・ジェネレーター
*「ジェネレーター」とは、ティーチャー(教える人)でもファシリテーター(話を引き出す人)でもなく、「創り出す人」のこと。参加者と一緒にミライのコトバを考えます。
井庭 崇(いば たかし)
慶應義塾大学総合政策学部教授。創造的活動を支援する「パターン・ランゲージ」の日本における先駆者であり、未来へ向けて言葉づくりからアプローチする新たな手法「フューチャー・ランゲージ」を提案。産学連携によるワークショップ等で、海老名市をはじめ全国の街づくりなどに携わる。著書に『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』『プロジェクト・デザイン・パターン』等
参加者Aチーム
小林 晃太(こばやし こうた)小6
「暇さえあればパソコンを触っています。夏休み中にプログラミング(Scratch)で重力をつくりたい」
坂下 蓮(さかした れん)小6
「得意なことはプログラミング。夏休みは海でスイカ割りをしたい。まだやったことがないんです」
長田 柑凪(おさだ かんな)中1
「部活はソフトテニス部。趣味はギター。夏休みはライブに行ってグッズを買いたいです」
飛驒 さくら(ひだ さくら)中1
「得意なことはダンス。夏休みは習い事の華道を極めたいと思います」
佐藤 悠羅(さとう ゆうら)中2
「好きなことはピアノとテニス。夏休みはテニスで忙しくなりそうです」
参加者Bチーム
西郷 はるの(さいごう はるの)小5
「好きなことは料理。夏休みは旅行に行きたいです」
高橋 彪之輔(たかはし とらのすけ)小5
「好きなことはサッカーと、『ワンオクロック』を聞くこと。夏休みは、30秒以内にルービックキューブを全面揃えたい。今は40秒」
森 陽実(もり ひさね)小5
「好きなことは読書と絵をかくこと。特技は習字と裁縫。夏休みにやりたいことはまだ考え中」
西郷 いちの(さいごう いちの)中1
「好きなことは習い事のミュージカル。夏休みはおいしいものをたくさん食べたいです」
渡部 誠(わたべ まこと)中2
「部活は剣道部。夏休みはおじいちゃんの実家の福島に行きたいです」
ジェネレーター 慶應義塾大学 井庭崇研究会 ゼミ生
鈴木 崚平(すずき りょうへい)
木村 紀彦(きむら のりひこ)
岩田 華林(いわた かりん)
黒田 吏緒葉(くろだ りおは)
宗像 このみ(むなかた このみ)
1.まずは自己紹介。夏休みにやりたいことは?
陽射しがいっぱいの会場に、10人の小中学生が集まりました。今日は2つのチームに分かれてアイデアを出していきます。もちろんみんな、フューチャー・ランゲージをつくるのは初めて。「今日って何するの?」「よくわかんない」「でも、ちょっと知ってるよ」などなど、知っている人同士はさっそくおしゃべりで盛り上がっています。
初対面の人もいるので、まずは席について、一人ひとり自己紹介。
「好きなことや得意なこと、それと、この夏休みにやりたいことも教えてください」
ジェネレーターの井庭さんがみんなに呼びかけます。ちょっと恥ずかしそうにしていた子どもたちですが、みんな大きな声ではきはきと、「スイカ割りをしたい!」「ライブに行ってグッズとか買えたらなって思います」「旅行に行きたいです」などと答えてくれました。
今回も、サポーターとして井庭崇研究会のゼミ生が加わります。大学生、大学院生あわせて5名。子どもたちと同じように、「サーフィンをしたい」「映画を見たい」「キャンプで昆虫採集したい」など、夏休みにやりたいことを交えながら笑顔で自己紹介。最後は井庭さんです。
「僕の子どもは14歳、8歳、4歳の三姉妹。みんなの年齢に近いです。夏休みの間にアメリカへ引っ越しをするので、新しい生活の準備をしています」
ここでは、大人も子どもも関係なく、みんながジェネレーター(創り出す人)。同じように紹介しあい、挨拶を交わしたところで、いよいよ海老名ミライカイギがスタートします。
ちょっと緊張気味だったみんなも、一人ひとりの紹介が終わるころにはすっかり笑顔に。大人、子ども、学年や男女を超えて、みんなで楽しくおしゃべりしていきます。
2. 「なったらいいな」を書いていこう!
初めに「海老名がこうなったらいいな」という理想のミライを、黄色い付箋に書いていきます。どちらのチームも、「うーん…」。はじめはなかなか言葉が出てきません。
ふだんはじっくり考える機会がない、自分たちが住む街のこと。そこで、大学生、大学院生のサポーターも輪に加わり、一緒に考えていきます。
「ふだん、どんなところで遊んでいるの?」
「私は、友達とショッピングとか…」
「ショッピングー?」「そんなの、僕は遠足のお菓子を買うときしか行かないよ」
「えーー! じゃあ服とかどこで買うの?」
会話がどんどん活発になっていきました。
「じゃあさ、『こんなお店があったらいいのになあ』と思うことはない?」
「ある! いっぱいある」
「大きな店だけじゃなくて、小さい店もたくさんあるのが楽しいよね」
「でっけー公園がほしい!」
「みんなで自由におしゃべりする場所も」
「たくさん出てきたね。じゃあ、それを書いていこう!」
書き始めると、止まりません。アトラクションがいっぱいある(絶叫系)、水族館、動物園、…。ワクワクするようなミライが、どんどん黄色い付箋に書かれていきます。中学生からは、「両耳イヤホンに厳しく」など、社会的な目線からの意見も。テーブルの上の大きな台紙が、みんなの理想でどんどん埋まっていきました。
理想の海老名を自由に考えて、自分で書いたり、発言したり。誰かの意見を聞くと、自分の考えもさらに広がっていきます。
3. 「困っていること」では、女子と男子が対立!?
次に、今困っていること、解決したいと思っていることを、ブルーの付箋に書いていきます。理想のミライですっかり盛り上がった子どもたち。みんな、競うように意見を出していきます。それぞれのチームで、少しずつ特徴も出てきたようです。
まず、Aチーム。
「部活の種類が少ない」「制服が暑い!」と女子。元気いっぱいの彼女たちにちょっと押され気味な男子たちは、「電線が多くて、写真を撮るときに邪魔になる」など、独自の目線で意見を出していきます。が、やがて対立は静かにヒートアップ。「女子が強すぎる」と男子。「男子がおしゃれじゃない」と女子。
それぞれの不満を解決する糸口はあるのか、そもそもそれは海老名と関係があるのか…。先が読めない展開のなかで、それでもみんなの意見は止まらず、ブルーの付箋もどんどん増えていきます。
Bチームのキーワードは、「ストレス」です。
学校、友達、親やきょうだいのこと、いろいろなストレスがたまっているのに、それを発散する場所がないとのこと。仲良しの友達同士でおしゃべりはするけれど、「もっとさわぎたい!」「大人はトレーニングジムに行くし、お酒飲むからいいよね」と、不満をもらします。男子からは、「障がい者が困っているのに、そのまま通り過ぎる大人を見て残念だった」という意見も。
ストレスを発散する場所がある大人。なのに、困っている人にやさしくない? 大人にも課題を突き付ける、鋭い展開になってきました。
意外に多い「困っていること」。子どもだって悩むし、ぐちも言いたい! 大人に対する不満もあります。たまっていることを、どんどんここで出しちゃおう!
4. 解決策なんて見つかる? いや、見つけよう!
ここで、意見をいったん整理します。近い意見をまとめてグループ分けし、困っていること(青)と、それを解決した先にある理想のミライ(黄色)を組み合わせて線でつないでいきます。
その線の上に乗せていくのが、解決策。これはグリーンの付箋に書いていきます。どうすれば困ったことが解決できて、みんなが望むミライになっていくのか。今までは自由に好きなことをおしゃべりしてきたけれど、ここからはアイデアで勝負です。
Aチームの「女子VS男子」は、解決策が見つかるのでしょうか。
「なんで男子はダサいのかな」
「中学生になると、スポーツブランドばっかり着てるからじゃない?」
「だって、大人の服はまだ大きすぎるし、キッズサイズは恥ずかしいし…」
「メンズとキッズの間の服があればいいんじゃない?」
「そういうのが売ってるコーナーがお店にあればいいよね!」
迷宮入りかと思われた課題も、みんなで話し合ううちに、だんだん出口が見えてきました。男子も、女子に対して直接言いにくいことについては「ポスターにする」など、伝え方を工夫しようという意見が出てきました。
Bチームでは、「ストレスを発散できる場所をつくればいい!」と大盛り上がり。
「大人のバーみたいに、子どもたちがぐちったり、悩みを相談できるお店がいい」
「勉強がわからないときもちょっと教えてくれるとか」
アイデアがどんどん広がります。
一方で、障がい者にやさしい街のために、ポイント制などの仕組みをつくっては…という社会的な課題の解決策も生まれました。
不満を言っているだけじゃつまらないし、何も変わりません。どうしたらもっと楽しくなる? 難しく思えた課題も、みんなで考えるとアイデアがあふれてきます。