パートナーや子どもたちとの時間を大切にしながら、自分らしく人生を楽しむ。そんな2人が思い描く未来とは? フューチャー・ランゲージ=「ミライを語るコトバ」を考え、理想の暮らしを自分たちの力で近づける「海老名ミライカイギ」。第3回は、海老名市で暮らす共働きのご夫婦が登場します。それぞれに専門職で働く皆さん。これまでとはちょっと違う角度からのアイデアが生まれそうです。
「フューチャー・ランゲージ」とは
「自動車」という言葉ができる前、自動車は「馬なし馬車」と呼ばれていたそうです。「自ら動く車」という考え方がなかった当時の人々は、それを表す言葉を持っていませんでした。でも、もしも先に「自ら動く車があったらいいな」「それを『自動車』って呼ぶのはどう?」なんて会話をしていたら、「馬なし馬車」よりもイメージがふくらんで、自動車の進化は早まったかもしれません。「今ないもの」を表す共通の言葉をつくり、理想の未来をぐっと近づける。それが、フューチャー・ランゲージという考え方です。
ジェネレーター
*「ジェネレーター」とは、ティーチャー(教える人)でもファシリテーター(話を引き出す人)でもなく、「創り出す人」のこと。参加者と一緒にミライのコトバを考えます。
井庭 崇(いば たかし)
慶應義塾大学総合政策学部准教授。創造的活動を支援する「パターン・ランゲージ」の日本における先駆者であり、未来へ向けて言葉づくりからアプローチする新たな手法「フューチャー・ランゲージ」を提案。産学連携によるワークショップ等で、海老名市をはじめ全国の街づくりなどに携わる。著書に『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』『プロジェクト・デザイン・パターン』等
参加者
神明(しんめい)豊一さん
海老名市在住。横浜のイタリアンレストランでシェフを務める。行列ができるほどの人気店で多忙な毎日。休日は地元の海老名でのんびり過ごす。シェフ歴は20年以上。
真帆さん
自宅にて整骨院を経営。開業を目指す中で妊娠・出産を経験し、体調の変化に悩んだことをきっかけに、「女性専用のサロン風」というスタイルを実現。
加藤 宗将(むねゆき)さん
海老名市在住。大のコーヒー好きが高じ、海老名にて念願の自家焙煎コーヒー生豆専門ショップを開業。30種類以上の豆を取り揃え、こだわりの風味を提供している。
花さん
キッチンカーで移動しながら、夫の宗将さんが焙煎したコーヒー豆のドリップコーヒーを販売。自身もコーヒー好きで、カフェに勤務していたことも。
サポーター 慶應義塾大学 井庭崇研究会 ゼミ生
村上 航
野崎 琴未
1. コーヒー豆専門店、整体サロン、シェフ…仕事で輝くご夫婦が登場!
井庭
今日は単なるヒアリングではなくて、「ミライのコトバ」をつくるワークショップです。いろいろなアイデアが出せるように手順を踏んでいくので、楽しくやっていきましょう。では初めに自己紹介からいきましょうか。
加藤 宗将
僕は海老名市で、生のコーヒー豆を焙煎、販売する店を経営しています。奥さんがその豆を積んだキッチンカーで移動して、ドリップコーヒーを売っているんです。
井庭
キッチンカーですか!いいですね。海老名で営業しているんですか?
加藤 花
海老名ではまだキッチンカーは出店できないんです。制約があるんですよね。今は厚木などで出しています。私、もともと厚木出身なんですよ。
神明 真帆
えっ、私も厚木!中学は厚中(厚木中学校)で…。
加藤 花
私も厚中(笑)!偶然ですね。私は結婚してから海老名に来ました。実は今日で結婚2年目なんです。
神明 真帆
おめでとうございます!うちは12年目です。
井庭
神明真帆さんも自営業ですね。5年前から、ご自宅で女性向けの整骨院をなさっているんですね。
神明 真帆
はい。仕事と子育てを両立したくて、今のスタイルになりました。小学生の子どもが2人いるんですが、子どもが帰ってくる時間は予約を入れないようにしているので、「おかえり」って言ってあげられるんです。
神明 豊一
妻は社会にずっと関わっていたい、子育てもしたいということだったので、少しでも助けられればと2人で考えて、こういう形になりました。僕は横浜のイタリアンレストランでシェフをしています。休みの日は海老名の野菜を使って料理をつくるんですよ。こだわっている人の野菜って、すごくおいしいんです。
それぞれに専門の仕事を持つ4人。神明さんご夫妻は子育ても。自分らしく生きながら、家族みんなが笑顔で暮らす未来に向けてアイデアを出し合います。
2. 海老名だけの魅力を発信! 新しいこともどんどん受け入れる街に
井庭
ではさっそく始めていきます。この黄色の付箋に、「こんな未来があったらいいな」というのを書いてください。
加藤 宗将
さっき、神明さんが海老名の野菜はおいしいっておっしゃいましたよね。そういう海老名の魅力を、もっと外に向けて発信していけたらいいなと思います。
神明 豊一
そう、他にはない魅力っていうのが大事ですよね。海老名は大型店があって便利な場所ではあるけれど、雰囲気があってこだわりがある小さな個人店なども増えたらもっと楽しいなと。加藤さんの話を聞いたことがあるけれど、本当にすごい情熱。そういうお店が輝く街になればいいなと思うんです。
加藤 花
新しいものやサービスが、どんどんとけこんでいくような街になってくれたらと思います。
加藤 宗将
そうですね。もっとオープンになって、イベントなども企画・実現してみんなで交流できるような街になったら嬉しいですね。若い人に「趣味を仕事にしている」と言ったらすごく驚かれたことがあるんですが、いろいろな働き方があることも伝えたいです。
井庭
学生や子どもたちとの交流もいいですね。神明さんは2人のお子さんがいらっしゃいますが、子育ての視点からはいかがですか?
神明 真帆
私は、中学校で給食が出たらいいなあと思います。働くお母さんたちが毎朝お弁当を作るのは本当に大変なので…。
神明 豊一
あとは、家族で周りに気兼ねなくバーベキューできる場所とか、1日中のんびり過ごせる場所があればいいですね。
神明 真帆
屋根がついているとか、屋内とか、天候に関係なく使えたらもっといいかも?
新しいことを始めやすい、受け入れやすい街。子育てしやすい街。魅力を外に向けて発信できる街…。皆さんが求める理想を書いていきます。
3. 魅力を高めるにはどうする? リアルな要望を形にするには?
井庭
次に、「困っていること」をこのブルーの付箋に書いていきます。何かありますか?
加藤 花
車で行けるランチのお店がまだ少ないかなあ。海老名に来てから車に乗らない日はないので、そこはまだ不便だと感じます。
井庭
僕はスケジュールが過密だと、車の中でランチを食べるんですよね。キッチンカーが公園にいてくれたら車でアクセスしやすいし、そのまま車を停めて食べられたら便利なんですが(笑)。
神明 豊一
面白いですね。そこには何かビジネスチャンスもあるような…。
加藤 宗将
僕は自分をアピールする場が足りないと感じます。個人店もそうだし、イベントやストリートミュージシャンとか、まだ他のエリアに比べて自由に発信できるわけではない。行政とのやり取りが難しい。音楽とコーヒーとパンがある街は、それだけで来る理由になると思うんですが…。
井庭
そういう店とかイベントを求める声もあるんですよね。それが行政にはリアルに届いていないのかもしれません。
神明 真帆
店を開きたい人と、利用したいと思う人が一緒に行政に話しにいけば伝わるのかな。
神明 豊一
イベントとかで、公園ももっとうまく活用できると思うなあ。
井庭
なるほど、そうですね! そういう手段を思いついたら、このグリーンの付箋に書いていきましょう。
神明 豊一
さっきの給食の話ですけど、地元のレストランが給食に関わっていけたら面白いんじゃないですか?
村上
いいですね。その地域に根付きますよね。子どもも大人も知っているお店ということで。
井庭
ストリートミュージシャンも、何か違う形でできれば…。ストリートが厳しいなら、「対・ストリートミュージシャン」ってどうですか? オープンカフェなどから道に向かって演奏するんです。
加藤 宗将
面白い(笑)。いろんなつながりも生まれそうです。
発信する場が、まだまだ足りない! こだわりがある4人ならではの活発なディスカッション。理想を実現するための方法について、発想を転換しながら進めていきます。
4. 個人が発信できる「民間特区」、他にもアイデアが続々と
井庭
ここまでいろいろなアイデアが出ましたが、いよいよこれに「名前」をつけていきます。じゃあ僕から…。まず、「民間特区」というコトバをつくりました。行政ではなく民間が提供する場所で、もっと自由にのびのびと、お店や個人が発信していける場所、ということで。他にも思いついたら言ってくださいね。
加藤 花
えーっと…。キッチンカーで給食を届ける、「給食カー」とか。
野崎
レストランとかが出張してくれるといいですね。楽しそうです!
神明 真帆
お弁当をつくるときって、子どもが塾へ行っている場合は夜の分も持たせるんです。もちろんそれをつくるお母さんも大変なんだけど、何より学校が終わってから冷たくなったお弁当を食べる子どもたちが切ないなあって…。給食カーがあれば、夜の分も温かいごはんが食べられるんじゃないですか。
井庭
「給食カー」、いいですよね! キッチンカーの可能性が広がりますね。他にはどうですか?
村上
「無目的スペース」っていうのが浮かびました。買い物とかの目的がなくてものんびり過ごせる場所の名前で。
井庭
「多目的」じゃないんだね(笑)。じゃあ、これも書いていきます。名前はピンクの付箋ですね。理想の未来の「黄色」、困っていることの「ブルー」、実現する手段の「グリーン」とこうやってつないでいくことで、名前をつけたことが何を解決して、どんな未来をつくるのか、それをどうやって実現していけばいいのかがわかるんです。では、どんどん出していきましょう!
いよいよ「ミライのコトバ」をつくっていきます。個人が自由に発信できる「民間特区」など、海老名を元気にする新しいコトバとは?