小学生、中学生が集まって、ミライを引き寄せるコトバをつくる「海老名ミライカイギ」。前編では、女子と男子の対立、ストレスがたまっていることなどの課題が浮き彫りになりましたが、話し合ううちに解決策も見えてきました。後編は、いよいよフューチャー・ランゲージをつくっていきます。さて、どんなコトバが生まれるでしょうか?
「フューチャー・ランゲージ」とは
「自動車」という言葉ができる前、自動車は「馬なし馬車」と呼ばれていたそうです。「自ら動く車」という考え方がなかった当時の人々は、それを表す言葉を持っていませんでした。でも、もしも先に「自ら動く車があったらいいな」「それを『自動車』って呼ぶのはどう?」なんて会話をしていたら、「馬なし馬車」よりもイメージがふくらんで、自動車の進化は早まったかもしれません。「今ないもの」を表す共通の言葉をつくり、理想の未来をぐっと近づける。それが、フューチャー・ランゲージという考え方です。
メイン・ジェネレーター
*「ジェネレーター」とは、ティーチャー(教える人)でもファシリテーター(話を引き出す人)でもなく、「創り出す人」のこと。参加者と一緒にミライのコトバを考えます。
井庭 崇(いば たかし)
慶應義塾大学総合政策学部教授。創造的活動を支援する「パターン・ランゲージ」の日本における先駆者であり、未来へ向けて言葉づくりからアプローチする新たな手法「フューチャー・ランゲージ」を提案。産学連携によるワークショップ等で、海老名市をはじめ全国の街づくりなどに携わる。著書に『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』『プロジェクト・デザイン・パターン』等
参加者Aチーム
小林 晃太(こばやし こうた)小6
「暇さえあればパソコンを触っています。夏休み中にプログラミング(Scratch)で重力をつくりたい」
坂下 蓮(さかした れん)小6
「得意なことはプログラミング。夏休みは海でスイカ割りをしたい。まだやったことがないんです」
長田 柑凪(おさだ かんな)中1
「部活はソフトテニス部。趣味はギター。夏休みはライブに行ってグッズを買いたいです」
飛驒 さくら(ひだ さくら)中1
「得意なことはダンス。夏休みは習い事の華道を極めたいと思います」
佐藤 悠羅(さとう ゆうら)中2
「好きなことはピアノとテニス。夏休みはテニスで忙しくなりそうです」
参加者Bチーム
西郷 はるの(さいごう はるの)小5
「好きなことは料理。夏休みは旅行に行きたいです」
高橋 彪之輔(たかはし とらのすけ)小5
「好きなことはサッカーと、『ワンオクロック』を聞くこと。夏休みは、30秒以内にルービックキューブを全面揃えたい。今は40秒」
森 陽実(もり ひさね)小5
「好きなことは読書と絵をかくこと。特技は習字と裁縫。夏休みにやりたいことはまだ考え中」
西郷 いちの(さいごう いちの)中1
「好きなことは習い事のミュージカル。夏休みはおいしいものをたくさん食べたいです」
渡部 誠(わたべ まこと)中2
「部活は剣道部。夏休みはおじいちゃんの実家の福島に行きたいです」
ジェネレーター 慶應義塾大学 井庭崇研究会 ゼミ生
鈴木 崚平(すずき りょうへい)
木村 紀彦(きむら のりひこ)
岩田 華林(いわた かりん)
黒田 吏緒葉(くろだ りおは)
宗像 このみ(むなかた このみ)
1.アイデアに名前をつける。難しい?楽しい!
理想のミライ、今の課題、そして解決策。みんなの意見がまとまってきたところで、いよいよ海老名ミライカイギのクライマックス。それぞれの解決策に名前をつけていきます。せっかくの素敵なアイデアも、名前があるのとないのとでは大違い。共通のコトバがあれば、いろいろな人とそのことについて話し合えるし、だからこそ実現する可能性もグンと高まるのです。
「メンズとキッズの間の服は、なんだろう?」
「ジュニア? Boy's size、Girl's sizeとか」
「それにしようよ!」
「男子もおしゃれになるんじゃない?」
「大人みたいに、ぐちを言えるバーはどんな名前?」
「やけ酒じゃなくて、やけミルク飲む!みたいな」
「『やけミルク』っていいね!」
「じゃあバーの名前は、『やけバー』とか」
楽しいアイデアがどんどんあふれていきます。いい名前を思いついたら、今度はピンクの付箋。時間いっぱいまで意見を出し合い、台紙の上はどんどんカラフルになっていきました。
名前をつけるって難しい? 最初はちょっと考え込んでいたけれど、誰かがひとこと話せば、次のコトバがすぐに出てきます。
2. 発表!まずは前向きなアイデアいっぱいのAチーム
最後は、いよいよ各チームのフューチャー・ランゲージの発表です。全員がテーブルを囲んで集まり、Aチームから説明をします。
まず、大きなテーマだった「男子がおしゃれじゃない」問題。これは、メンズとキッズの間のサイズがあればいい、ということで「Boy's size」と名付けました。「これがあれば、男子はおしゃれになってくれそう?」とサポーターの大学生が問いかけると、女子はニコニコして「うんうん!」とうなずきます。女子も「Girl's size」があれば、もっとおしゃれを楽しめそうです。
そして、男子からみた女子は「強すぎてちょっとコワい」。その解決策は「女子おしとや化運動」と名付け、男子からのメッセージをのせたポスターをつくるというアイデアが出ました。「夏休みのポスターみたいな感じ。俳句をつくってフレーズにして伝える」という説明に、聞いていたBチームの女子も思わず大笑い。
「みんながショッピングするところが街の中心部に集まりすぎているから、いろいろなところにゴチャゴチャとした商店街をつくりたい」ということで「スクランブル商店街」、パソコンが学校に少ないことから「パソコンが無料で自由に使えて、大人がいるカフェみたいな雰囲気で子ども専用」の「子どもCAFE」というアイデアも。
さらに、新しく引っ越してきた人が地域の人と交流しながら街を覚えられるイベントとして「街中(まちなか)鬼ごっこ」。これは市民全員参加!という説明に、全員から大きな笑い声が起こりました。
他にも、生地や柄が選べる「ゆるい制服」など、毎日がもっと楽しく、海老名がもっと好きになりそうな前向きなアイデアが続々と発表されました。
どこへ向かうのか心配だった女子と男子の対話も、最後はすっきり解決。これからはお互いにもっと理解しあって、いろいろなことに協力しあえるかも?
3. じっくり考えて社会的なアイデアもあふれたBチーム
次はBチームの発表です。みんなで移動し、テーブルの上の台紙を囲みます。違うチームのコトバに触れる時間も発見がいっぱい。みんなの目がキラキラと輝いています。
Bチームは、街へのアイデアが豊富です。まず、ちょっと暗くて寂しい道があるので音楽を流そうという解決策には「ロードライト」「道路ミュージック」という素敵な名前が。校内の放送室のように、子どもから大人までみんなでかける音楽を考えたり選んだりする「海老名放送委員会」というアイデアも出ました。困っている人を助けるなど、親切な行動は積極的に評価して表彰する「シティ・ヒーロー」や、市に対して障がい者支援についての意見を気軽に届けられる「ボランティア・アプリ」という意見も。
そして、このチームで大きなテーマのひとつとなっていた「ストレス発散」。これには「やけくそバー」「ぐちバー」「小中校バー」、さらに未成年限定「20歳未満バー」など、たくさんの楽しい名前が発表されました。ぐちも聞いてくれて、ときには勉強もみてくれる。そんなマスターとして大学生がカウンターにいるお店、というアイデアに、みんなも「いいね!」と盛り上がります。
ストレス解消の場には、他にもサンドバッグをひたすら叩く「サンドバッグボックス」、みんなで食べたり飲んだりおしゃべりする「さわぎ場」なども発表されました。「強すぎる女子がそこで発散してくれたら、男子も安全だね」とサポーターの大学生がうなずくと、みんなも「なるほどー!」と大笑いです。
その他、学校同志が交流する「横ぐしまつり」や学校対抗の「脱出ゲーム」、植樹などで緑を守りながらそこで遊べる「森のアスレチック」など、今すぐ実現したくなるものが次々に発表されました。
大好きな街にするためのアイデアが続々。そして、ストレス解消へのアイデアが止まらない! ワクワクしながらつくったコトバを堂々と発表しました。
4. たくさん生まれたミライのコトバ。実現していこう!
2チームそれぞれの発表に大きな拍手が送られて、海老名ミライカイギは終了です。最後に、みんなで記念撮影! セミの声が響きわたるなか、一人ひとりのアイデアがつまった大きな台紙を広げ、笑顔でパチリ。今日初めて会って、すっかり意気投合した人たちもいるようです。
感想を聞いてみると、「おもしろかった!」「言いたいことが言えた!」「日頃の悩みを発散できました!」という元気いっぱいの返事。一方で「まだまだ言いたいことがあった」「もっと書けばよかった」「もっといろんな人の意見が聞いてみたい」という声も。「つづきがあったら、また来たい?」とたずねると、「ぜったい来たい!」「学校とかでもやってほしい」「ふだんあんまり海老名のことを考えないから、またみんなで話したい」という、前向きでうれしい声が返ってきました。
たくさんのフューチャー・ランゲージが生まれた今、大切なことはこれからです。このコトバをちゃんと残して、ときにはみんなで話し合っていく。そんな日々が、理想のミライを引き寄せていきます。誰かがつくるのを待つのではない、自分たちでつくる大好きな街、海老名。みんなの輝く笑顔とともに、第4回の「小学生・中学生」編は大きな期待と希望に包まれて幕を下ろしました。
みんなで話し合ったら、いろいろなミライが見えてきました。カタチにするために、もっともっと海老名について話し合っていこう!