理想の暮らしを語り合うだけでなく、その実現を後押しするパワフルな言葉(フューチャー・ランゲージ)をつくる「海老名ミライカイギ」。今回は、海老名や近郊に住む子育て中のママたちが参加して語り合っています。前編で生まれた「ミライのコトバ」は、「ベビーカーバス」「気ママハウス」。後編では、どんなコトバが飛び出すでしょうか?
「フューチャー・ランゲージ」とは
「自動車」という言葉ができる前、自動車は「馬なし馬車」と呼ばれていたそうです。「自ら動く車」という考え方がなかった当時の人々は、それを表す言葉を持っていませんでした。でも、もしも先に「自ら動く車があったらいいな」「それを『自動車』って呼ぶのはどう?」なんて会話をしていたら、「馬なし馬車」よりもイメージがふくらんで、自動車の進化は早まったかもしれません。「今ないもの」を表す共通の言葉をつくり、理想の未来をぐっと近づける。それが、フューチャー・ランゲージという考え方です。
ジェネレーター
*「ジェネレーター」とは、ティーチャー(教える人)でもファシリテーター(話を引き出す人)でもなく、「創り出す人」のこと。参加者と一緒にミライのコトバを考えます。
井庭 崇(いば たかし)
慶應義塾大学総合政策学部准教授。創造的活動を支援する「パターン・ランゲージ」の日本における先駆者であり、未来へ向けて言葉づくりからアプローチする新たな手法「フューチャー・ランゲージ」を提案。産学連携によるワークショップ等で、海老名市をはじめ全国の街づくりなどに携わる。著書に『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』『プロジェクト・デザイン・パターン』等
参加者
五十嵐公恵さん
海老名市在住。出身も海老名。結婚で地元を離れた後、出産と同時に再び海老名へ。お子さんは2歳。
押田明子さん
海老名市在住。子どもの頃は親の転勤で各地へ移り住み、結婚後に夫の実家がある海老名市に来て3年目。お子さんは2歳。
友澤光里さん
厚木市在住。出身地であり、結婚前まで住んでいた海老名には今でもよく訪れる。お子さんは1歳。
サポーター 慶應義塾大学 井庭崇研究会 ゼミ生
森 遥香
宗像このみ
1.ママものびのび!「気ママレストラン」
井庭
みなさんに、海老名の好きなところや「こうなったらいいな」という想いを自由に語っていただき、そのアイデアに名前をつけています。今のところ、ベビーカーやバギーでそのまま乗れる「ベビーカーバス」「バギーバス」、ママたちが気ままにつながって学び合うコミュニティ「気ママハウス」、ですね。他にも考えていきましょうか。
五十嵐
「気ママレストラン」ってどうですか? 子連れでママ友と食事するとき、私はコミュニティセンターの保育室で食べることが多いんです。こぼしても自分で拭けばいいし、店員さんに気を使わなくても済むので(笑)。こんなふうに、もっと気楽に、気ままに過ごせるお店があればいいなと思います。
友澤
そうそう! そんなお店が商業施設のなかにあればいいなあ。
井庭
いちいち店員さんを「すみませーん」って呼ぶんじゃなくて、子どもの行動を踏まえてセルフでいろいろできる。そんな新しい仕組みがあるといいかもしれませんね。
押田
せっかく食事に行っても、子どもを追いかけまわして終わることもありますし(笑)。そんな時間を気楽に、気を遣わずに過ごせるレストラン、ですね。
森
「気ママ」っていう言葉はいろいろできそうですね。「そのまま」「ありのまま」なんかも面白そうです。
海老名ミライカイギもいよいよ後半へ。日頃感じている「こうなったらいいな」を語り合うことで、たくさんの言葉が生まれていきます。
2.それって、「バギー距離」にある?
井庭
さっき、「ベビーカーバス」や「バギーバス」があるといいねという話をしましたよね。子どもと一緒の移動というのはやはり大変、ということでした。そこから考えていきましょうか。
宗像
そうですね…。これはフィンランドの例なんですけど、距離を表すのにトナカイの1歩がひとつの単位だったりするんですよ。
宗像
そんなふうに、何か海老名で新しい単位ができたらどうかな、と。
友澤
例えば、バギーで行ける距離を「バギー距離」って呼ぶのはどうでしょう。新しい施設をつくるときに、「これ、バギー距離じゃないからダメじゃない?」とか、そんな会話ができそう。
森
いいですね! ママ友の間でも、「それってバギー距離にある?」とか話せますね。
井庭
新しい単位をつくるっていいね。人それぞれ体力とかあるし、「そこはバギー距離3だから、私には大変」とか、「私は2.1くらいなら大丈夫」とか。
五十嵐
日によっても違いますよね。「今日は疲れているから、1だなあ」とか…。
井庭
週末に近づくにつれて変わってくるとか、ありますよね(笑)。うん、海老名オリジナルの単位とか測り方って、いいかもしれない。
会議が進むにつれて、どんどん付箋が貼られていきます。理想の未来が黄色、これからの課題が青、解決策になりそうなアイデアが緑。そしてピンクがフューチャー・ワード、「ミライのコトバ」です。
3.行けば友達に会える「みんなの庭」
井庭
「海老名らしさ」を表す言葉がいろいろ出てきましたね。あとは、街の中心に行くと誰かしら知っている人に会えるっていう安心感、というのもありました。それに何か名前をつけられたらいいなと思うんですが…。
押田
私はららぽーとの近くに住んでいるんですけど、「じゃあ、ららぽーとは庭だね」ってよく言われるんです。「庭」って、いい言葉だなあって。
友澤
そうですね。街の中心がみんなの家にとっての「庭」になっていて、重なり合うからよく会う、みたいな…。
押田
そうそう。会うのが当たり前で、「ああ、おはよう」って自然に言い合える感じ。だから海老名の中心は、例えるなら「みんなの庭」なんですね。
井庭
「みんなの庭」! いいと思います。わざわざ約束をして会うというより、行ったら会えた、それくらいのつながりが感じられるのがすごくいいですね。
五十嵐
約束しても、子どもの体調が悪かったりすると行けなかったりしますしね。
押田
そういうことを気にせず、気軽に行ける場所。それが、海老名の中心なんですね。
海老名の街の中心は、約束をしなくても誰かとつながれる「庭」のような場所。これからもそんな温かい場所であり続けてほしいという想いが、言葉を生み出していきます。
4.新しくなる海老名での暮らし方、働き方は?
井庭
「気ママレストラン」や「バギー距離」、「みんなの庭」…。街全体で子育てをする、海老名のそんな未来が見えてきましたね。
森
ニュースでよく見る保育園問題よりも、海老名での暮らしはもう一歩先へ進んでいる。「保育士」だけに頼るんじゃなくて、「市」全体で育むという意味で、「保育“市”」とか。
宗像
「共」に「育てる」、「共育(きょういく)」っていうのも浮かびました。
五十嵐
それもいいですね! 海老名らしいと思います。
井庭
みなさんの言葉から、今日は「ミライのコトバ」がたくさん生まれましたね。では最後に、みなさんはこれからどんな暮らしをしていきたいか、教えてください。
五十嵐
私は以前、フルタイムで働いていたんですよね。でも子どもが生まれてからは、子どもとの時間やママ同志の触れ合いが大切だと感じています。子どもの手が離れても、バリバリ働くよりは子どもを大切にしながら、そしてまわりの子どたちとも触れ合えるような働き方、暮らし方がいいですね。
友澤
私も、子どもが小学校へ入ったら働きたいと思うけど通勤時間を短くしたいというのもありますし、地元で仕事をしたいですね。子育て中であることを考慮してくれる企業が増えたら嬉しいなと思います。再開発でいろいろなサービスやイベントも増えそうだし、上手に利用して楽しんでいきたいです。
押田
そうですね。私も今は家族が中心なので、その中での自分というのを考えます。例えば、以前は銀座や横浜のヨガスタジオで働いていたんですけど、もう戻りたいとは思いません。これからもずっと海老名で働きたい。家族ができて定住すると決まったら、華やかな生活よりも、落ち着いた自然や便利な商業施設もあるこの場所がいいなと思うんです。おばあちゃんになってもお茶を飲んだりしたいねって、友達同士で老後の話もしています(笑)。
井庭
みなさん、こうしたい!という未来をしっかり描かれていますね。これからもどんどん語り合うことで、理想の未来を自分たちの手でつくっていけたらと思います。今日はありがとうございました。
自由に、たっぷり語り合った海老名ミライカイギ。ママたちの言葉と子どもたちのアートで、海老名を表現した色とりどりの未来が完成しました!